ヒスタミンは、1911年に英国のSir Henry Dale先生により発見された生理活性物質です。アレルギー反応や胃酸分泌に関わる生理活性物質として広く知られていますが、脳内では神経伝達物質として機能し、覚醒や学習記憶、食欲調節などに関わることが知られています。アルツハイマー病などではヒスタミン量が低下することが報告されており(Panula P, et al, 1998)、またヒスタミン合成酵素(histidine decarboxylase)の遺伝子異常はTourette症候群の原因となることがわかっています(Balden et al, 2014)。一方で、ヒスタミンを分解する酵素の遺伝子異常があると、パーキンソン病の罹患率が低いことも報告され(Jiménez-Jiménez FJ, et al, 2016)、脳内のヒスタミンが少ないと病気になりやすく、脳内ヒスタミンが多いと病気に対して予防的に働くのではないかと考えられています。
近年の研究ではナルコレプシーにおいて脳内のヒスタミン神経系の機能低下が病態に関わっていることが示唆されています(Shimada M, et al, 2020)。そこで我々の研究室では、脳内のヒスタミン神経系を活性化することでナルコレプシーを治療できるのではないかと考え研究に取り組んでいます。
①ヒスタミン神経系の活性化によるナルコレプシー治療
ナルコレプシーは日中の活動時間帯に突然耐えがたい眠気が生じる過眠症の1つとされています。ナルコレプシーの患者さんではオレキシンという覚醒に極めて重要な神経ペプチドが大きく減少していることが知られていますが、脳内のヒスタミンも減少していることが報告されています(Nishino S, et al, 2009, Bassetti, CL, el al, 2010, Shimada M, et al, 2020)。従ってナルコレプシーで減少している脳内ヒスタミンを薬物による増加させることが出来れば、ナルコレプシーの過眠症状を改善できるのではないかと考えています。我々の研究により脳内のヒスタミン濃度はヒスタミンを代謝するHNMT(histamine N-methyltransferase)により調節されていることがわかりました(Naganuma F, et al, 2017)。HNMTの機能を抑制する薬物はヒスタミン濃度を増加させてナルコレプシー症状を和らげる可能性が考えられることから。現在HNMTに対する阻害薬の開発を東北大学薬学部や九州大学農学部、東北医科薬科大学医学部の先生方と共同で実施しています。
②ヒスタミン系の機能解明
ヒスタミンは古くからアレルギーなどに関わることが知られていますが、脳内でのヒスタミンについての研究が本格的に始まったのは1980年代からで(Watanabe T, et al, 1983)、ドパミンやセロトニンなどと比べるとまだまだ未解明の点が多く残されています。例えばヒスタミンが強い覚醒作用があることは広く知られていますが、覚醒に重要な神経回路やREM睡眠/NREM睡眠への影響などについてはまだまだわかっていません。また多くの脳神経疾患とヒスタミン系異常が示唆されていますが、詳細なメカニズムについては不明のままです。当教室では様々なヒスタミン関連遺伝子の改変動物やアデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子操作、オプトジェネティクス、ファイバーフォトメトリーなどを用いながらヒスタミン神経系の全容解明に取り組んでいます。